閖上海岸の将来に想う

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スナガニ百態 ③昨年夏、「宮城昆虫地理研究会」の二人の先生が閖上海岸の調査に訪れた。大きな“虫取り網”を手に炎天下、両先生は二時間ほど海岸を歩き回られた。調査後、「ほら、これが“カワラハンミョウ”です!」と先生が嬉しげに語る。聞けば、この昆虫は宮城県の絶滅危惧種に指定される希少動物の一種なのだそうだ。そして先生は、「皆さんがハマボウフウの保護に努めてこられたお蔭ですよ」
と言葉を継がれた。昆虫の事はこれまで念頭になかったわたしは、「海浜植物たちはこんな働きもしていたのか..」と改めて考えさせられたことだった。

もうひとつ、嬉しい出来事が夏にあった。“スナガニ”が閖上海岸に帰って来たのである。姿を見せなくなってから久しく、“幻のカニ”と呼ばれていたスナガニの巣穴を多い日で74個、そこに潜んでいたカニの姿もこの目で確認できた。どうしてこのような事になったのか、その理由は解らない。「津波が海中を撹拌したからだ」と言う者もいれば、「海流の変化の所為だ」と言う者もいる。
いずれにしても彼らがそこに現れたのは事実であり、わたしたちはスナガニの出現を望ましい海岸の未来を予感させるものとして素直に喜びたい。
今年の春、名取市の海岸で林野庁による大規模な<海岸防災林復旧事業>がスタートする。“みどりのきずな再生プロジェクト”と銘打ったこの事業に、宮城県緑化推進委員会の支援の下わたしたちゆりりん愛護会も参加する。これからの海岸林再生活動は防災の目的だけでなく、被災地区住民の心のケアやコミュニティの復活にも寄与するものでありたい。震災前の海岸で老若男女が一つになって流した汗と、生きものたちがもたらした恩恵をこれからの海岸林づく
りにも活かさなければならない。わたしたちは、海岸に生きるものたちのふれあいと助け合いの精神を“地域の宝”として将来世代に伝えていきたいと思う。ゆりりん愛護会の活動は続く。
私たちの活動は終わりのない、しかしそれは夢にあふれたものなのだ。

ゆりりん愛護会代表 大橋信彦